マイナス・ゼロ

確かに傑作。でも、小説体験として「タイムトラベルもの」という括りに入れるものなのかは、多少悩ましい…と、またややこしいことを言ってみる。

結末近辺で回収されるタイムトラベルネタよりも(それは、明かされる前にだいたい想像がつくでしょう)、章が移って小説内時間が進むと、その世界で登場人物が普通に歳を取ってしまうことや、20年足らずの時間で日本が戦争から復興を遂げて文明を発達させてしまうことのほうに、衝撃を受ける。

SF的なアイデアよりも、その衝撃を与えるための、ディテールの緻密さのほうに感心した。

(もっともわたしは、書かれて40年近く経ってこの小説を読んでいるから、そのぶん、この自分の「衝撃」については、多分に時間が加勢していると評価しておくべきだろう。書かれた当時は「戦後の復興」だって「復員」だって日常からそう遠くない出来事だったのだろうし。あと、作者と読者のあいだに40年の時間があり、その作者はもはやこの世にいない、という、小説外のメタな要素を、時間SFの一部としていっしょくたにして味わっている気がする。)

タイムトラベルでどうにかなることがテーマではなく(30男が10代の女の子とよろしくほげほげしてほげほげ、なんてご都合主義もいいとこだろ!)、タイムトラベルでもどうにもならないことのほうがテーマ…と言えばいいのかな。

マイナス・ゼロ (集英社文庫)

マイナス・ゼロ (集英社文庫)