いつもの癖

気分でディクスン・カーを買った。会社と家の間のどこかには、必ず、ディクスン・カーを最初から最後まで心置きなく読める場所と時間があるはずで、ここ数年というもの、私はそれを探し続けているが、ついぞまだ、完全なディクスン・カーのための喫茶店やダイナーもしくは居酒屋に入ったことはない。読むつもりで買うが喫茶店に座るとほかのことをしてしまう。それは場所を間違えているのだと思う。私が悪いのではなく。

そうこうしているうちに家のディクスン・カー(およびその変名のカーター・ディクスン)は、早川文庫では現在出版されているものが、かなりのとこ、揃おうとしている。覚えているのは、「帽子収集狂事件」「皇帝のかぎ煙草入れ」「火刑法廷」「三つの棺」……それ以外は話の筋を思いつかないので、おそらく未読なのだろう。もし、完璧なカーのための喫茶店を探す試行錯誤の課程で、カーの全てが、未読のままそろってしまったら、私はこんな気分の日、本屋で何を買って、小説のための完璧な喫茶店(あるいはダイナー、あるいは居酒屋)に行けばいいというのか。

(そんなの常時小説を持ち歩けばいいじゃないか、という人は、小説を読むための完璧な時間と場所は、ある日の夕方、突発的に必要になるもので、最初からそれがわかっているわけではない、という前提をご理解いただきたい。)

……そう考えると、建前上、いつでも好きな本を呼び出せる電子ブックも、けっこういいもんじゃないかと思いました。iPodみたいな感じで、読むつもりがなくても精神の健康のために入れておく本というのがあると思うのです。