今日の再生(ヒストリー・オブ・バイオレンス、歩いても歩いても)

ヒストリー・オブ・バイオレンス (2005, DVD)

もし、あなたのご主人が、実は過去に特殊な訓練を積んだ殺人マシンだったら…、という話。

ちいさなダイナーを経営しながらこじんまりと生活していた主人公トム(ヴィゴ・モーテンセン)が、たまたま店に現れた強盗を殺してしまうことで、多くの人が彼の顔を知るところとなり、それをきっかけに昔の仲間が現れる。

家族を守るためにトムは戦うことになるわけだけど、相手が相手だけに、つい、殺してしまう。

ほんとうに身の危険を感じたら、それくらいはやるかも知れないなぁ、というリアリティはある。腕をしめあげて「いてててて…」では済まない相手なら、これくらいの過剰防衛はするのかも。

秘密を告げられて、妻(マリア・ベロ)が激昂するのだけれど、そこでつきつける「名字!」という怒り方がいい。そうだよ…そこめちゃくちゃ怒るところだよ…。

逆に、家族の追い込まれ方は、やや雑。いや、いくら強盗をぶっ殺した街の英雄でも、新聞の一面をそんなでかい写真で埋めたりしないでしょ、という。そこにはあまり力を入れてない、というか、状況のつくりかたは不条理でも、追い込まれた家族には切実だよね、という話か。

マリア・ベロナオミ・ワッツの区別がつかない。監督の好みの顔なんでしょうか…。

73点。

歩いても 歩いても (2008, DVD)

田舎の家に集まるきょうだい。話が進むうちに、それが死んだ兄の命日であることがわかってきて…という、淡々とした話。

自分がもし外国人で、この映画を字幕で観たら「ナニコレ、ワッケワカンネ」と放り出してしまうと思う。この会話から見えてくる設定や「おいしそう」な感じ=日本のコンテキストのわかる日本人でよかったな、と思ったので、たぶんこれは、いい日本映画なんだと思う。

導入を10分くらい観ていると、この家族のお互いのだいたいの関係と、抱いている感情がわかってくる。いい手際。あとは、要するに、その関係を、ときに細かく描いたり、ときにゆさぶったりするだけなのだけど。

ふたつの親子に分かれて歩くことになる墓参りのシーンは、世代が違う親子が二組歩いてるだけなんだけど、それまで見えてなかった対比を見せられて、「あっ、そうだな…」と、ハっとする。

壁に貼られたまま荷物の陰になっているジョイ・ディヴィジョンのポスターが、兄がもうこの世にいない、ということを雄弁に語っている。これはちょっと、うまいを通り越して、ずるい。

その他にも見どころはたくさん。

感想や評をちょっと見て回る。「こんなん今更」という評価のひともいるな。

私は映画をほとんど知らないので、「いい日本映画」に出会ったのも、これまで数えるほどだ。たくさん観ている人には「今更こんなテーマで映画を作らなくたって…」かも知れないけど、そうじゃない奴もいるんだよね……などと思った。

(この映画で最後描かれるように)人間は懲りないし、忘れるし、死んで世代が変わるとまた同じことをやったりするのだから、似たようなテーマの映画が作られ続けても別にいいんじゃないかなと思う。個人が「こんなテーマの映画」に飽きるのは別の話として。

この映画の夏川結衣はムラっとするくらい可愛い。設定上おきれいに見えるだけかも知れませんが…(設定でムラっとする馬鹿ですいません)。阿部寛は、上手なのか、下手なのか…。阿部寛といいYOUといい、特に変わったことをしてる人はいないと思うので、元からの味を活かしたキャスティングがうまく行ってるのかも。

夏川結衣の連れ子の男の子が、一番そとからこの家族を眺める鍵みたいな役なんだけど、彼のパートが、ちょっとファンタジックに描かれてたのは、よくわからなかった。

とりこぼしてるところは他にもたくさんある。タイトルの「歩いても…」に込められている意味だとか、樹木希林と「別の女」の間に何が起きてたのか、だとか。

サマーウォーズ」好きな人は観るといいと思います。あの映画観て「田舎の家族ってなぁ、いいもんだねぇ」と思ってる人の側頭部を、この映画でぶん殴ってみたらどうなるだろ、という意味で。(比喩的な意味で、です…それに、そんな凶悪な映画ではありませんので普通におすすめです…)

84点。