メルカトルかく語りき (1 -死人を起こす)

まぁこれは特別なので買って読みます。

メルカトルかく語りき (講談社ノベルス)

メルカトルかく語りき (講談社ノベルス)

1本ずつ読んで自分なりにコンセプトをメモしていこう。

直接内容に感動せず仕掛けやコンセプトがどうたらこうたら、と書いてると「ほんとそういうの好きですね」と言われるが、正味がそれだけしかない小説というのもあるんですよ、はい。

以下、ストーリーに触れます。

story

高校生だった若者6人が、夏休み、田舎の屋敷に泊まり込みで遊びにでかけるが、そこで仲間の一人が死んでしまう。

翌年の夏、残った5人は真相を知るために、同じ場所に集まり、銘探偵メルカトル鮎に事件の推理を依頼する。

ところがそこで仲間がもう一人死んでしまう。メルカトルは過去の事件と現在の事件を解決するよう依頼され、見事「解決」させる。

感想

  • 「Whoかと思ったらHowとWhyを説明する話でした!」もっかい捻って「ただし殺人事件の犯人のHowとかWhyじゃなくて!」という話。
  • この「でした!」がくせ者で、読んでいる間読者は、探偵が事件を解決してしまうものと思っているから、そこに注意を向けて読んでしまう。
  • でも実はこの話はそういう話ではなくて、探偵が「Who? いやー知らんわ犯人とか」と悟った後に、どうやって自分のHowとWhyのつじつまを合わせて話を締めるかということ「だった」。
  • そういう話「だった」…ことが、事後的に判る。
  • で、探偵のHowとWhyに関する記述は、確かに、「言われてみればそういうことが書いてあったよねぇ……」なんだけど、そんなん知るか!
  • でも、「言われてみれば……」っていうのは、本格読むときの基本だし、ミステリ作家は読者が読み流したところを蒸し返して意表つくのが仕事。
  • ということで、一応の本格ミステリ短編という枠に着地する。
  • と、整理したら、なんか『翼ある闇』と同じじゃん、ということになってしまった。しかしこっちは短編なので、50ページ足らずで「そんなん知るか!……でも……くっそたしかに書いてある……」という気分が味わえる。

翼ある闇 メルカトル鮎最後の事件 (講談社文庫)

翼ある闇 メルカトル鮎最後の事件 (講談社文庫)

いかん、「最後の事件」とか書いてある……すごいネタバレ……

  • 話をこの短編に戻して。この話のテクニックの中には、「探偵がいかにも探偵然として現れる」ことによるミスリードが多分に含まれているかも知れない。
    • 探偵は物語を特権的に説明するものだ、という前提があるから、誰が二つ目の殺人を犯したのかを気にして、探偵より先に事件の全貌を理解するつもりで読んでしまう。
    • しかし、この話の「メルカトル鮎」を「田中」とかなんとかいう名前で置き換えて、作中人物の一人にしてしまえば、田中には事件を解決する義務はないのだし、別にそんなねじ曲がった話でもないのではないかと思えてくる。
  • 話が二部構成になっているのも、いかにも「問題編」「解決編」に見えるけど、第二部では探偵が提示された問題を解決しますよー、とは、だれも言ってない。メルカトルは「自称銘探偵」として現場に現れるだけ。
  • twitterで感想見てると、この変態性に脳が沸いてる人が4割、「メルカトルは鬼畜w」とか言ってる人が6割くらいの割合かなー。自分の中ではそれは4:6じゃなくて7:3くらいの配合。