シリアスマン

当地ではいまごろ公開。

えーと、ものすごく面白いです。<「ファーゴ」の一番面白いシーンは、ウィリアム・H・メイシーがメモ紙になんか模様を書いてるところです>、というオレ基準で。

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感想

  • 一言で言うと「えっ、ユダヤ教ってそうなの?」
  • 本当にこの映画に出てくる感じなら、キリスト教の影響下に作られた映画が、深刻ぶって「こんな不条理を与えたもうた神とは何なのか、神はいるのか?」みたいな内容を映画にしちゃうのとはまったく別の次元で、ユダヤ人というものの見方があることになる。
  • ユダヤ教ってなんなの? の白眉である歯医者のエピソードは圧倒的な面白さ。これは会場からけっこう笑いが漏れていた。
  • アメリカン・ビューティー」を連想させる。最後は同じだしね…(しかし全く別の意味で)!
  • 「なんかオレばっかりひどい目に遭ってまじなんなの……なんか間違ってるの……神様は罰ゲームかなんかしてるわけ……」という疑問が、あのラストによって終わるというのは、それまで笑って観ていた日本人は、若干凍り付きもするのではないか。
    • (ネタバレ)悪夢のように訪れる、最後の最大の不条理が、「自然災害」なのだから…。
    • (高位のラビがジェファーソン・エアプレインのメンバーを言える、という描写から、あの「災害」を見た息子はラリってた、という見方もできなくないけど…マリファナではそんな変な幻覚を見たりせんだろうし…いやそうじゃないな、一応成人式のシーンからは場面切り替わってる)
  • 登場人物を俯瞰で見て「バーカ…バーカ…バッ……」を連発していた他のコーエン兄弟作品に比べて、この映画は感情移入しやすい。主人公は狂った世界でシリアスマンたろうとしているので、観客は主人公の困惑と怒りを共有できる。
    • 邦画ならどっかで「はぁーー?」(相武紗季ふう)とかっるーい突っ込みが出て、そこから月曜ドラマランドみたいな安い展開になりそうなところを、この映画では90分ひたすら我慢。「イライラしながら笑う」という、なかなかない体験ができる
    • 奥さんを寝取った男を見ているときのイライラ加減はいままで観た映画の中でもベスト10に入る。「怒りをしずめるにはまずハグから」とか、現代に生きていれば、ライフハック系ブログに書いてあるようなことを真顔で実践してしかも効果を上げてそれを人に薦めているだろう、救いようのないバカ(ただし、世界のこちら側からの評価であり、社会的には向こうのほうがまとも)なので、安心して「…こいつは死ね、まじで死ねっ」と思える。
  • (ネタバレ)で、悪意がないのに腹立たしいこの隣人は、実際ものすごくあっけなく死ぬんだけど、死んでしまうと、それはそれで途方にくれるのだ。この切り返しが面白い。登場人物に「死ね」と思ったけど、本当に死ねとは思ってなかったよ…。映画の中でこんな感情を抱くなんて。
  • (ネタバレ)他にも、韓国系学生のエピソードなど。普段の自分なら、2chまとめブログなんかで書かれてる「なんちゃらニダ!」的な決めつけが面白いとは全く思わない筈なのだが……あまりのウザい展開に、簡単に差別的に「フヒヒ、ありそうw」と笑ってしまっている自分に気がつく。
  • だから単純に、人間の悲しさをコメディタッチで撮ったなんちゃら、というだけではないですよこれは。その先の得体の知れない何かに触れていて、観客をそこに連れて行こうとしている、と思った。

83点。