ミスター・ノーバディ

story

ニモは1975年生まれ。様々な死をニモは経験し、そのどれかの時間の先の2092年、意識を取り戻す。そのころ、人類は臓器の交換などによって不死の生命を手に入れていた。ニモは最後の mortal な人間として、過去に遡る催眠を受け、半生をふりかえるインタビューを受ける。

notes

リニアな文章ではストーリーの表現が困難。

しかし「こんな経験初めて!」ではない。知っているものによく似ている。自分が知っている中では『街』。チュンソフトの開発者が映画の企画に参加したと言われても疑わない。

バッドエンドが見せられ、バッドエンドを回避するためのきっかけが提示され、それぞれの分岐をザッピングしたり、バッドエンドから時間を遡行したりして、主人公は人生全体を変えていく。

語りが要領よく進むので、頭の中でスイッチが切り替わりながら攻略チャートが組み立てられていくのが実に気持ちいい。「バタフライエフェクトが……」「やっと逢えた……」などの、このての時間SFお約束のくすぐりもあり、途中まで「これは、140分で『街』と『シュタインズゲート』の大部分を葬り去れるな!」と盛り上がって観ていた。

とはいえ、話は合理的には閉じず、前代未聞のハッピーエンドで全てがどうでもよくなる。「けっきょくあれはどこにつながっていたの?」というエピソードのいくらかも、客の注意を掴み続けるレッドヘリングに近いものだったことがわかる。

しかし、まぁそういう解決を最初から期待してはいなかったので問題なし。

っていうか、「きれいに辻褄が合うように構築されている」=「後半はきちんと回収しなければならない」=「後半は尻すぼみ・伏線回収とかうるさい人への言い訳」になるほうが嫌。(そういう理由で私は「バタフライエフェクト」を観たことがない。)

そういう「辻褄あわせ」を越えたところにテーマを感じる。

主人公のニモは時間軸を自由に移動できるし、並行して存在できる、という設定がポイント。事故で死を迎えても、その因果をやすやすと辿り、時間を遡ることができる。
そんなご都合設定でも、ニモは、それぞれの分岐で出会う3人の女性達を、(時間軸を移動し、並行的に存在できるニモの主観では)同時に、愛そうと試みるのだ。

ノベルゲームで展開する、「ここでこの条件を満たしていると**ルート」みたいなのが私は基本的に苦手だ。

「攻略対象Aに対して感情を注ぐシナリオ」「攻略対象Bに対して感情を注ぐシナリオ」を見せられている自分の置き場所がよくわからなくなってくる。Aエンドを辿っているときの主人公の経緯のことを、Bエンドを辿っているときの主人公は知らない。しかし、プレイヤーはその両方を知っている。しかも、プレイヤーにはその経験が累積していく。主人公とプレイヤーはどんどん別の存在になってゆく。

シュタインズゲート」は、バッドエンドを回避するプレイヤーの役割を、主人公の岡部が受け持つという仕組みが斬新だと思った(他にもあるかもだけど知らない)。プレイヤーと主人公の関係のずれを、最小限に押さえられるし、プレイヤーが選択するべきところを主人公が勝手に進めてくれるし。でも結局、「だれとかエンド」の分岐の先までは、主人公である岡部は感知していない。クリスEDを見ている岡部は、鈴羽EDの「恋はデジャ・ブ」のことを知らないのだ。

(最後の電話はてっきりそこを狙ってくるのかと思ったんだけど……。)

この映画では、分岐(攻略対象の女性)や因果関係が、話の途中でどんどん切り替わる。ノベルゲーム的な感情動員メソッドで考えると、そんなことをしても泣けないだろ、ってことになりそうだけど、これが意外と、並行して見てるそれぞれのルートでジンときたり、絶望したりできるのだ。

Q:正解の人生はどれか? →A:全て。あれでも、それって、ノベルゲームにはまって「どのキャラとかいうことではなくて、この世界観が好き」ってなるのとあまり変わらない結論なような……。

初回観たとき感じる安直さを超えたところで、裏で細かい整合性が取られている気はする。気がするだけかも知れないけど……(「トゥルーマンショー」「2001年宇宙の旅」「素晴らしき哉、人生!」の引用がなんのためかよくわからなかったりするし、ハッタリも多いのかも)。

絵のきれいさ、語りの巧みさだけでも観ていて楽しい。DVDが出たら欲しい。

アドベンチャーゲームの好きな人におすすめです。

初見79点。

SEGA THE BEST 街 ~運命の交差点~ 特別篇 - PSP

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Steins;Gate(通常版) - PSP

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感想書いてる人に「脳内ニューヨーク」を挙げている人がいて、納得した。確かに、同じこと(迷いの果ての生の肯定)を描いてる…!

脳内ニューヨーク [DVD]

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トゥルーマン・ショー(通常版) [DVD]

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こうやって並べて眺めると、この映画の意図も、観たときとはちょっと変わって感じられる。アドベンチャーゲームの方も、単なるエンターテイメントではない、(うっかり)人生の何かに触れた、愛すべき作品って感じがしてきます。