ミステリ未満の話だった

友達とご飯を食べていて、その友達の知り合いに、男を騙して女から憎まれるタイプの人がいたよ、という、よくある世間話になった。

A子さんは、異性に関して見境がないのと、異性にはすぐいい顔したがるのに裏がある、ことで知られていた。

A子さんは、会社でもモテて人気だったB男さんと結婚したが、それでおさまるはずもなく、その後、年下のC太くんと浮気…というかつきあいはじめた。

C太くんの家にA子さんが泊まりに行くこともしばしばあったのだという。A子さんはB男さんには、習い事で友達の家に泊まりがけだから、という口実を、夫であるB男さんには通しているらしく、B男さんは妻の浮気に気づいていない(と、観測されている)。

A子さんはなかなか面の皮が厚い人らしく、C太くんの実家に、C太くんと一緒に出かけていってそこでC太くんの両親と一緒に飯を食ったりすることも、あるのだそうだ。これはまぁC太くんの方も図太いというか、何考えているんだろうねぇ、すごいねぇ、という話をしていた。

一度、C太くんの彼女D美さんに(彼女がいるのだ)A子さんの身の回り品をみつかって、「何これ?」と問いつめられたことがあったらしい。

そのときC太くんはとっさに、「いやあの、X男とY子さんっていう夫婦と友達でさ、二人をうちに呼んだんだけど、Y子さんのほうが忘れていったんだよ」と嘘をついたのだという。

そのとき、工作らしきことが行われた。

A子さんが、自分の携帯電話の日付設定を数日もどして、「ごめん、X男だけど、この間お邪魔したときY子がさぁなんか忘れてなかった?」というメールをC太くんに送る。C太くんはA子の携帯電話の番号をX男名義に変えて(あるいは最初からX男の名前になっていて)、その届いたメールを、彼女であるD美に見せたらしい。メールの送信時刻は、D美が問いつめた時刻よりも前になっているので、これは慌てて工作したものはないよ、ということを言いたいわけだ。

この話じたい、そういうことがあったらしい、という伝聞だし、私が見たわけではないので、そういうことが本当にあったのか、できたのか、定かではない。

「そんなことができるのかな?」
「どうだろう…にしても、紙のように薄いアリバイだね」わたしはつくね串から一つつくねをもいで頬張った。(焼き鳥にランダムアクセスする運動を実践中である)

つまり携帯電話の時刻設定がそのままメールの発信日時として適用されるのかという一点に、問題は絞られる。

「ふむ…いちど試してみても面白いかも知れない…」

…いや、もう我慢の限界だ。私は笑い出した。

「…(プッ)…っていうかさ、すごいよねそれ! 普通疑う側だって、ほかの状況証拠とかと合わせて怪しいって思うから言うわけじゃない? それをさ、メールが疑われるより過去に届いたってことを根拠に、梃子入れしようとしてるわけでしょう。もしその場で浮気じゃないんだねって彼女が認めてもさ、疑ったっていう気持ちは残るんだから、その時点で失点がついちゃってるでしょ。メールがこの時点で来たとかどうとか、一点に賭ける意味なんてないのに。涙ぐましいっていうか、なんか、何その火サス、みたいな。想像力がすげぇよほんと。そういうことをとっさに思いつける人とちょっと友達になってみたいよね」

うーん…一点に賭ける意味なんてない(絶対に浮気を認めたくない)、というのは私が疎いだけかも知れないな。あと友達になってみたいというのも嘘。なんか言うと「くわっ」と見栄とか切りそうで、めんどくさそうだ。