諸君、私はスコットランドヤードが嫌いだ (reprise)

先日スタバでだらだらしているとき、近くの席で、「iPhoneでネットビジネス」だかなんだかいう本をはさんで話をしている人たちがいた。聞くともなく聞いていると:

A「**さんはブログとか書きます?」
B「いやー、一応はじめてみたけどネタがなくって」

などといった会話が気になる。

私の語彙センサが、会話から「ブログのネタ」、という言葉を発見し、話者Bの性質をある範囲に固定した(決めつけた、とも言う)。そしてそういう会話にうんうんとうなずく話者Aの性質を、もっと狭い範囲のどこかに固定した(決めつけた)。

だいたい、iPhoneでネットビジネス、という意味がわからない。ヤフオクの入札いつでもできるよ、という話なのか、AppStoreで一山当てろ、ということなのか。しかし、iPhoneアプリケーションを作ってみようというエンジニアなら、「ブログのネタ」なんて言うまでもなく、書くことなんて死ぬほどあるだろうし(よく知りませんが……)

A「……アマゾンとか使われます?」

A「……まぁ、要は、アイデア料を一件何百円かいただく、ということですね」

断片的な話をつなぎ合わせて、はぁこれは、ドロップシッピングで儲ける話をしているのかな、と推測した。

ここまでは、ドロップシッピングに関して私がマイナスの印象を持っていることを言うだけの、単なる話の枕である。ドロップシッピングと言われると、マグカップやTシャツなどに、自分の思い思いのデザインを施して売るサイトのようなものを、連想してしまう。そしてそこから、MSゴシックでベタっと書かれた、おっさんギャグの載った商品の山を連想して、さらに私は偏見を強めてしまうのだった。以下、その偏見のポーズをとったままで続けて書く。

死体遺棄の疑いで指名手配され、顔写真がテレビでも大々的に報道された後、逮捕された人というのがいた。その人の顔写真をあしらったTシャツが、ドロップシッピングサイト(?)で売られてあるのを見かけた。

悪趣味だ(ほかに何かないんか)とは思うが、「容疑者であっても肖像権あるだろ」といったことには、わたしはそれほど興味がない。これをTシャツにしてしまうセンスには興味があるが。

容疑者がなぜつかまったか、というと、整形前後の顔写真がテレビで公開されたからだ。なぜテレビで写真を公開すると逮捕できるかというと、多くの人が見て、容疑者の情報が得やすくなるからだ。

たとえば、大阪市在住の善良な一市民Xさんが、たまたまあるところで男を見かけ、その顔が容疑者に似ていると通報して、それが逮捕のきっかけになったとする。しかし、このXさんは、私と同じようにテレビを見て、「たまたま」そのくじに当たったにすぎない。

ならば、実際に容疑者を見かけて通報したXさんと同じだけの責任を、テレビで写真を見た全員が負っていると言える。通報したのは、Xさんであると同時に、私でもある。

……そういった異常な事態を、「サザエボン」や「BOZU」と同じようなノリで、Tシャツのデザインとして簡単に消費してしまえるダサいセンスに、興味がある。

これに似た感覚で、私は「スコットランドヤード」というゲームが好きになれないのである。数人の刑事役と1人の犯罪者役に分かれて、犯罪者側の1人が地図の上を、刑事と鉢合わせにならないように、秘密裏に逃亡するというゲームだが、普通に遊ぶと、刑事側のひとりひとりの思考を全部足し合わせても、犯罪者側の感じるプレッシャーと、釣り合わない。

刑事がただボケっと突っ立っていても、犯罪者側は勝手にプレッシャーを感じてくれる。

一億人の刑事がテレビを見るだけで、犯人が逮捕される。

死体遺棄事件で容疑者が逮捕されたとき、情報公開から逮捕までのスピードに「もうつかまったのか」と言う人がいた。

あなたがテレビを見て容疑者の顔を知ったことと、逮捕のスピードの間には、わずかではあるがはっきりした因果関係があるんだから、それは「もうつかまったのか」と、他人事のように驚くところではないですよ。あなたがテレビで顔写真を見たからこそ、容疑者は、早くつかまったんです。

私が指名手配Tシャツを作るなら、キャプションには、「この顔を見た瞬間、あなたは犯罪捜査の片棒を担ぐ責任を負うことに同意したとみなします」……と……いえ、作りませんけども……。

追記

ゲーム的に言うと、スコットランドヤードやって楽しかったーと言うのは、たいていは、刑事側のリーダーと怪盗Xだけ。二人用ゲームとして遊べばいいと思います。

指輪物語」「パンデミック」「キャメロットを覆う影」などがおすすめです。

とくに「パンデミック」は、局面ごとの<正解>があまりはっきりしていないので、口うるさいリーダーが「じゃぁ君こうしなよ」とお節介を焼きにくる可能性はすこし減っています。


パンデミック (Pandemic) 日本語版 ボードゲーム

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