シャネル&ストラヴィンスキー

音楽がそうとうよい。劇用に作られた曲があるのか、全編ストラヴィンスキーの曲なのかもよくわかりませんが……二人が親密になるシーンのピアノ連弾の曲など、おれにもわかるすてきさ。

芝居がよかったのか、筋立てが明快だったからか、集中して観られた。人物が視線を交わしたり、小首をかしげたりするたび「なに、どうしたの、何も怖いことないでしょ」「あなた、そうやって自立してない自分を認めてくれって言うけど、それ、女に自立するなって言ってるのと同じなのよ」などの台詞が聞こえてきそうなくらい。

最初に結ばれるときのシャネルの顔が、一瞬女の子っぽく見えたりして、よかった。

わかりやすいにはわかりやすいのだが、奥さんの意地や価値観を描きたかったのか、そういうものと無縁な人間同士の精神の結びつきを描きたかったのかが、中途半端で、人物が皆同じくらいには不可解。

シャネルは「No.5」を完成させ、ストラヴィンスキーは見事「春の祭典」を満足いくよう演奏できました……というシンプルな話ではない筈だが、そういうふうにしか描かれない。あの役者なら、もっと凝った話でもよかったような(監督の意図よりもシンプルに編集されてしまったのかも知れないが)。

(ややネタバレ)ラスト、ヨロヨロの老女がベッドの上で来し方を振り返りつつ死を迎える、というシーンがあって、これが(時間をまたいだ)晩年のココ・シャネルなのだが、ストラヴィンスキーの「春の祭典」演奏のシーンとつながれていて、まさか演奏の一方で奥さんをそこまでボロボロに描くのか……と一瞬思った。

奥さんの病気顔は、何か微妙に逃げられなくなるようなものを放射していた。

追記

奥さんに「恥じらいとか慎みとかないの?」と、不倫の関係をとがめられたシャネルが「ない」と即答するシーンがあるが、これ、会社で「あんた、何様だか知らないけどもうちょっとちゃんとした格好してきなさいよ」とお局になじられて「はぁ、そっすか、気をつけます」と言う社内SEみたいだと思った。気持ちはわかるが、私はそれだけで生きているわけではない、そして必要以上に私があなたの価値を尊重して生きる謂われはない、というエラソな感じ。

62点。