words: 太平燕

「えっ、太平燕ってどこでもあるものじゃなかったの?」と友達がびっくりしていた。

太平燕(たいぴーえん)は熊本でできた中華料理で、チャンポンに似た具材(白菜、豚肉、木耳、椎茸など)で作る。スープは鶏ガラベースでチャンポンのものより薄味。麺のかわりに春雨が入っている。ゆで卵が上に乗っているのも特徴。

熊本の小学生は給食でこれを月1回は食わされる。

他県他校はどうだかしらないがおれが通った小学校ではお昼の校内放送というのがあって、その日のメニューを読み上げるので、他の中華料理は知らなくても太平燕だけは音と味で記憶に残った。

とはいえ、郷土料理として紹介したくなるほど珍しいものでも、この料理ならここという名店があるようなものでもない。中華料理店「中華園」の初代店主が、燕の巣のスープの代用品として作り出したもので、最初はまかない料理に近い位置づけだったのかも知れない。現在では燕の巣そのものが手に入りやすくなったので、そのような代用料理を出さずに燕の巣のスープでよしとしているところもある。

中華園のオリジナルのレシピは、昭和28年6月の熊本大洪水によって消失し、本当の味を今に伝える人はいない。

最後の1行が梶尾真治のSFっぽくてウソくさいが、本当らしい。

参考:

白菜を中華スープにすると、つい春雨をいれたくなるのだが、小学生のときのすり込みなのかもしれない。