母なる証明

凝った感想を書こうとしていたけど、やめた。

「親子の関係」「社会」「貧しさ」どれも徹底的に辛くなるようには描いていないんだよな。主人公たちが、ぎりぎりまで追い詰められるというわけではない。たとえば、母親はどこから金を工面しているのか、みたいな部分の描き方はすごく曖昧。そこをもっときっちり描いて、「貧しさ」を観客に体感させて、辛い気分にさせることは、いくらでもできたはず。

一つ一つのテーマに観客を同調させることよりか、話の中で常に何かに物語を引っ張らせることに神経を集中させていると思った。そのためのサービスもてんこ盛り。息子の「あの顔」とか、犯罪マニアの息子の友達の「誰も信じるな」とか。で、それがちゃんと、話の中で説得力を持ってる。

映画的な伏線を拾い終えて「どうすんだこれ」と思ったところで、あのラスト。「それか……!」という意外さと、映像の美しさと、そこまでのストーリーの内容から来る重みで、衝撃を受ける。っていうか、あの映像はほとんどそれだけで、この映像で泣けとも笑えとも言ってないのがすごい。

見終わった後しばらくすると、なんか気分がよくなってきた。無理矢理言語化すると、こんな感じ。

テーマ(社会問題だとか、母子の情愛だとか…)を突き詰めて追う気概が無くても、目の前のものを「謎」かもしれない、と思って眺めていればいい。その「謎」が些細なことの繰り返しで終わったとしても構わない。覚えてさえいれば、ある日突然、それまでなんでもないと思っていたものが、テーマとしての意味を持つようなこともあるよ、人生ってそういうもんだよ。

それは、すごく楽観的で救いがあるんじゃないだろうか。

『翼ある闇』を読んだときの感じに近いかなー、などと思った。

追記

知り合い何人かに「すごいから観るといいよ」とメールしてたら、どこがすごかったのかわかんなくなってきた。もう一回観よう。

追記2

後で考えて、いちいち「いやこういう解釈も……よくわからん」という深読みができてしまう。

たとえば、自分の息子の昔のエピソードを他人にフランクに話すシーン。「それ以来身体にいいものを……」とか、あんた認識が歪んでるだろ、とも言える。それが序盤の「小便させながら薬を飲ませる」という、やや異常なシーンの裏付けにもなってる。あの「おかあさん……」というつぶやきは、ひょっとしたら、息子と精神があまりに同化してしまって漏れた言葉なのかもしれないな、と、思えたりする(つまり、あのシーンで呼んだのは、母であると同時に自分自身のこと)。

韓国での母親(誰からも「オンマ」と言われてる)の役割みたいなものも考え合わせると面白いのかもしれないけど、そこまで知識がありません……。

…観た人は、飯を食いながら語る会をやりましょう。

90点。