脳内ニューヨーク

頭も夫婦関係もおかしくなりつつある舞台演出家が、ニューヨークにある倉庫の中にまるまるニューヨークを作って、その中で自分の芝居を構想する……という話。

そんな話ならしょうがないな…! と思いながら観る。

その場にいる演出家やスタッフを含めて、起きていることをまるごとコピーする演劇なんだから、そこからどういう事態になっていくかはおおかた想像がつくけれど、それで退屈することはなかった。

しかし、それとは別に、話を貫くロジックみたいなものがないと、そうかーそうなんだな、というふうにしか感じられない。「ここはおかしいだろ!」というツッコミを拒否してるタイプの映画。

(後で調べたら、脚本は「マルコヴィッチの穴」の人。そうかー)

タイトルは、「高階ニューヨーク」と名前を変えてもよさげ。LISPプログラマの人ならこの話にエレガントな終わり方を見つけてくれるんじゃないだろうか。

めんどくさい仮構を頭の中にこしらえることで、孤独をやりすごしている人(劇中でも描かれるけど、それは「時間の進み方が遅い人」でもある)は、そんなに数が少ないわけじゃないんだな、と考えると、ほっとするというか、暗い気分になるというか。

時間について、役割について、他人について、出会いについて、いろいろ考えてるときに観ると、響くところも大きい話かもしれない。映画館ではもういいけど、もう1,2回観てもいいかな(少し構えて観ないと意味不明すぎ)と思った。

60点。

追記

Sの感想を読んだ。普通に笑いながら見て良かったのかな……。ヘイデンの「えー、今更?」とか、思い出せばいろいろありそう。

印象に残っているのは、「私は孤独なんだ」と言う主人公(P.S.ホフマン)に、何人目かの女性(もはや、その役割を与えられただけの理由でそこにいる、主人公とほとんどつながりのない女性)が、「じゃぁ、ファックしましょう」とあっけらかんと言うシーン。このレベルの細かいところを気にしていけば、これも、いろいろありそう。

追記1.5

話が進むごとに、人間関係はどんどん意味不明で希薄になっていき、ラストに至っては、主人公は「あんた誰だっけ?」という女性の肩を借りて、人生を終える。そこはきっと、言いたい所なんだろうなと思った。

「映画を見終わったあと、客電がついて、見ず知らずの人と目が合ってしまう時間」というのが、私はけっこう好きだな、ということを思い出した。この回は観客4人だった。

追記2

この話を外側から見ると、単なる、「プライドが高くて対人能力が低いため、人間関係にも自分の仕事にも、いつまでもケリをつけることが出来ず、無駄に歳ばかりとる駄目なおじさん」の話だが、そんな当たり前のことは、***(<あなたの嫌いな映画評論家の名前を入れる)にでも言わせておけばいいですよね。