ベンダ・ビリリ もうひとつのキンシャサの奇跡

キンシャサで暮らす障碍者のバンドの、結成からヨーロッパツアーに至るまでを撮ったドキュメンタリー。

http://wiredvision.jp/news/200902/2009021920.html

障害というのはポリオの後遺症で、メンバーの多くは脚の自由がきかない。かれらの移動は、手でペダルが漕げるように改造した三輪車。ポリオの流行はおそらく世代によると思うから、かれらの正確な位置づけはわからないけれど、大人で脚が萎えている人は相当数いる印象。社会はまだ貧富の差が激しく、貧しい者は大人も子供も、段ボールを寝床にして寝ている。車椅子のメンバーも身障者用のシェルターに住んでいるが、ホームレスと紙一重という状態。

全篇、音楽と言葉が強く心を打つ。彼らの中から溢れてくるリズムと言葉がそのまま音楽になっているようだ。子供どうしが金をかけてコインの裏表を出し合うギャンブルひとつとっても、すごいスピードとリズム感。

しかしこうも思う。身体から溢れてくるようになるにはそれだけ注がないとだめなんだぜ。私たちはよく、黒人には身体能力やリズム感はかなわないと言うが、私の周りのどこに、思わず踊りたくなってしまうくらい注ぎ込まれる音楽や楽しさがあるというのか。

この映画は6年かけて撮影されている。序盤から登場する、空き缶に弦を一本張っただけの楽器を鳴らす少年は、精悍な顔立ちの青年になり、ワールドツアーではバンドのMCとして活躍するようになる。ステージの左で一弦楽器を持ったままステージの上に倒れ込み、ジミ・ヘンドリックスよろしく演奏を始める姿には、胸が熱くなった(あるいは、彼は既に過去のライブの映像を見たことがあるのかも知れないが……)。

ライブの金のあがりをちょろまかそうとしたバンドの取り巻き(暗くてよく見えないが、おそらく子供ではなく小人症の青年)を取り囲んで、若い奴に「そいつぶん殴ったれ!」と指図するバンドメンバーの映像。指図された若者(一弦ギターの彼)はヤクザキックで躊躇なく小さな男を突き飛ばし、続けて右フックを入れようとする。同じエネルギーで暴力も音楽も動いているのだろう。

73点。