エンジェルウォーズ

今月6本目。

いやーこれは象徴的な意味を盛り込んだ傑作でしょう。目にもおいしいし、映画館で観るべき。

83点。

以下、ネタバレ。

story

20歳の「少女」ベイビードールは富豪の家に生まれるが、母親の死後遺産を狙う継父に疎んじられ、諍いの末誤って妹を死なせてしまい、自らも継父に精神病院に入れられてしまう。

精神病院の中では音楽と演技を中心にした治療が行われていて、ベイビードールもその治療を受けることになるが、自分を犯そうとした継父の差し金で、記憶を消すためのロボトミー手術を受けさせられることになってしまう。

舞台変わって、精神病院とよく似た娼館。この娼館の少女たちは客にダンスを見せるが、客の男たちに抱かれるのも仕事の一つだ。スイートピー、ロケット、ブロンディ、アンバーたち、どこからか連れてこられた身よりのない少女たちがここで暮らしている。その仲間にベイビードールが加わる。

病院長と同じ顔をした娼館のママに「踊れ」と言われ、ベイビードールは自らの才能を見いだす。ベイビードールは、音楽に合わせて踊ると、あたかもそこに世界が広がっているように見たものに錯覚させてしまうほどの、ダンスの力量を持っていた。自らが踊る「世界」の中で、ベイビードールは老いた男に武器を授かり、「5つのアイテムを探せ」と啓示を受ける。

啓示のまま、ベイビードールは仲間に、アイテムを探す脱出計画を話す。グループのリーダー格のスイートピーは最初は取り合わなかったが、皆の切実さに折れ、皆を守るために計画に参加する。ベイビードールが娼館の者を踊りで惑わせている間に、他の少女が必要なものを盗み出すという算段だった。

計画はうまくいくかに思えたが、オーナーのブルーに計画が発覚し、仲間も傷つき、殺されてゆく。残されたベイビードールとスイートピーは脱出を試みるが、折悪しく門のところにはベイビードールを身請けする大富豪の姿があった。ベイビードールはスイートピーに、自分が気を引いている間に逃げろと言う。

スイートピーは門から逃げ出し、ベイビードールは捕まった。

そこで、ベイビードールが、ロボトミー施術直前の一瞬の間に見ていた長い空想が断ち切られ、長い針が目の奥に入り、ベイビードールの前頭葉は破壊された。継父から金を受け取り処置の手はずを整えていた現実世界のブルーは逮捕されたが、ベイビードールの精神は破壊された。

ベイビードールたちの脱出計画は、現実世界でも成功していた。スイートピーは、バスに乗って未知の世界へ出て行った。

note

  • まぁとにかく最初から最後までクライマックス、キメ絵の連続。普通だったら「ごちゃごちゃしてわけわかんない」はずの、CGを使いまくった戦闘シーンに全く隙がない。リズムやカット割りがちゃんと理にかなっているから観られるんだと思う。
    • ドラゴン斬りの宙返りシーンは「あぁ映像的なエクスタシーってこういうことなのか」と納得した。
    • カットを切らない列車襲撃も、テンポがすばらしく、メカ兵士の肢体に日本刀が入るたび「うぉぉ…」と呻くような声が出た(私が)。
  • そのくせ話が妙に象徴的。
    • 女の子たちが話しているシーンではほとんど全て「鏡」が登場するし、ドラマの多くはメイクルームで展開する。
    • 鏡とは何か。女の子が鏡を見てメイクするとき、鏡の中の自分は「私ではない私の願望」であるはずだ。
    • ベイビードールが「脱出」の算段を仲間に話して、はなしが動き始めるときのカメラワーク。彼女たちを後ろから撮っていたカメラがぐるっと回りこんで、化粧台の鏡の中に入っていって、鏡の中の彼女たちを映しながら、そのままシーンが続行する。そしてその後そこから「戻る」ようなシーンはない。これは単なる映像的な遊びじゃないだろう。戦い始めるのは鏡の中の自分の分身なのだ。現実はこうだけど、鏡の中の自分は…という。
    • 女の子たちがえらいケバいのも、それが「戦闘服」だからなんだろうなと理解。
    • 実際最後、「分身」になったスイートピーが外に出て行くけど、そのことは予告されていて、ベッドを挟んで座って話すシーンで、ベイビードールとスイートピーは座り方が逆向きなんだよね(たしか)。ロケットのベッドを挟んで点対称みたいに座って、対立するような会話をしてる。
  • エンドロールの「Love is the Drug」がはまりすぎ。歌っているのはブルーなんだけどちょう気持ちよさそう。
    • ダンススタジオで最初に踊らされるとき、後ろに立っている女たちのたたずまいがちょい退廃的で「ロキシーのジャケみたいだな」と思ったけど、ビンゴだった。


  • 銃器戦闘そのものじゃなく発砲する弾の軌跡がうつくしいんだぜ、っていうWW2っぽい世界でナチゾンビ的何かと戦うシーンはすごく現代ゲーム的。映画を見て作ったゲームをさらに見て作ってるおかしな感じ。

note 2

こじつけや、他の人の感想見て気になったところをメモ。

  • マルホランド・ドライブ」のオープニングで、楽しげに踊る複製された男女がたくさん出てくるけど、この映画のエンドロールはあれなのかなーとか思った。死者の見た夢。
    • 鏡=左右対称を強調した構図はエンドロールでも。
  • 身寄りがない少女たちの暮らす場所で少女が戦いを選ぼうとする中で、一人が死んでもう一人が別の者として生きる、のであれば、これ「冬の小鳥」とだいたい同じ話だな、という…「冬の小鳥」では、ベイビードールとスイートピーの二人分をキム・セロンちゃんが演じてますけど
    • 少女というには面子歳くいすぎ、というのもそのあたり残酷に描いてるようでもある
  • 初代「プリンス・オブ・ペルシャ」で、鏡に飛び込むとそこからポンって自分の影が代わりに出て行くっていうシーンがあるけど、あれに神話っぽい意味を感じる(単純に「あぁ分身だ」じゃなくって、なにかぞわっとするものを感じる)向きの人なら、辻褄とか関係なく楽しめるんじゃないだろうか
  • なぜ、ダンスのシーンが描かれないのか?
    • 「現実にはダンスではなく****、ベイビードールはその間空想しているから」=「あのド迫力のバトルシーンは全て逃避の産物」。あぁそっか。
    • 娼館では「ダンスでアイテムを手に入れた」と描かれているけれど、ラスト前の会話で、現実世界でも似たことが起きていたことがわかるわけで、そしたら現実世界の精神病院で女の子たちはどうやってライターや鍵を手に入れたんでしょうね? ということになる。それはダンスじゃないでしょう、ということだな。
    • それで、最後のコックとゲート係の意味深な目線につながる、と。
    • 言われてみれば、分析を受けるシーンで寝椅子に座っているカットの直前、涙目で上を向いて横たわるバストショットが映るのだった。そこからすぐ寝椅子に繋がるので「なんだ…やられちゃうわけじゃないんだ…」とほっとするのだけど、あれは別々の時間をつないでいたんだな
  • インタビューによると、ダンスシーンは撮ってあって時間の都合で切ったらしい…上段の理屈崩壊(でもないけど)