ふと思い出したこと

大学の研究室の同級生がマンドリン部でギターだったし、バイト先の塾の先生(といっても5つくらい歳上なだけ)が同じようなポジションだったりで、自分の中では、マンドリンアンサンブルの中のギター弾き、の人口比はとても高い。

その、バイト先の先生のことを書く。

先生といってもフランチャイズの塾なので、使われてる職員という感じだ。N大のマンドリン部でギターをひいていたそうで、いちど、ディアハンターのテーマを演奏して聞かせてくれた。それは僕が知っているギターの音とは違う、大きく澄んだ音だった。

彼は見た目は「うらなりの茄子」を絵に描いたような慇懃な小男だった*1が、自分の信念を重視する人で、適当にやる、ということができないタイプの人だった。本も沢山読んでいて、仕事をやめるとき、その人その人に合った文庫本を選んで手渡していた(なぜか僕にはショーペンハウエルの『自殺について』*2だった…不義理で読んでないが…どういう意味だろう。お前は情緒的に過ぎるってこと?)

いやこれは、いつか自分で書いた、僕に大江健三郎を貸してくれた先生の話の剽窃ではなく、本当の話だ。

あるときミステリの話になったことがある。そのときの僕は何を好んで読んでいたわけでもなかったし、ジャンル小説の読者でもなかった。

「**(僕の苗字)さん、ミステリを今から読まれるなら、一番いい作家をお教えしますよ。クリスティみたいな有名どころへは、その後読み進んでいけばいい」

「へぇ。それは…?」

「…******です」

誠実な人だったからきっと本人は大まじめに言ったのだと信じたい。しかし今になってみると、この歴史的な決めぜりふを、かれは一度、自分で口にしてみたかっただけなのではないか、などとも思う。

以上のような前振りで、綾辻行人『暗黒館』を読み始められたらなかなかかっこいいのではないか、と思ったが、そうもいかない。まだ『黒猫館』も読んでません。

*1:しかしこれはひどすぎる描写かも…本人の方、読んでたらすいません…

*2:違う…『読書について』だったかも…忘れました…