デトロイト・メタル・シティ

こ、これはすごい。ロックだ。童貞男がロックを聴くということが余すところなく漫画として描かれている。劇中の演奏はほとんど関係なく、根岸の煩悶とそこからのカタルシスがすべて。あーいや、だからロック漫画というかこれはメタロック漫画か。

ある意味18歳以上推奨。なぜなら高校を卒業して新入生歓迎コンパで「音楽とかなに系聴くのぉ」「あたし何でもぉ、強いて言えば**系?」「あぁ、いいよねぇ」みたいな内容のない会話を交わしているときの童貞男の屈折した感情がわかるかどうかで、この漫画への共感度が違うからだ。

ジレンマを味わうクラウザーさんがなんかおもしろい、というのは女子の読み方だ。

ロックを聴く童貞男の中にはもれなくクラウザーさんが住んでいて、この漫画はそれぞれのクラウザーさんの眠る扉をノックしてまわるのだった。おれもおれの内なるクラウザーさんのことを久しぶりに思いだした。

読み始めたときは「なんだこれ、ヌルい漫画だな…」と思っていたが、作中で相川さんの友達と合コンが始まったときに、カチッと、心のどこかでノブの回る音がした。

(ゴ・ゴ・ゴ・ゴ…)
そっち系の音楽大好き、だと…? そっち系って…何なんだよ…おい…

メタルというジャンルの音楽を全く知らないのでオレの中のクラウザーさん登場のテーマ曲はライドの「Like a Daydream」だし、クラウザーさんアジテーションは一切やらずに黙ってでかい音でギターを弾くだけだが。

Smile

メタルについての発見

何か知らない音楽を聴いてみようと思ったとき、自分がいいなと思える部分と余計だと思える部分があって、その音楽にハマるのに、余計な部分のほうがブレーキをかけることがある。たとえばカーディガンズの1stアルバムというのを初めて聴いたとき、イントロで響くポペポペ気の抜けた管楽器の音におれは困惑を禁じ得なかった。デス・ミュージック社長ふうに言えば「何それ、キモイ」だ。

音がキモイのではなく、ふとそのポペポペ音にすり寄りそうになってしまう自分がいそうで警戒する。

しかし、そういう余剰の部分はどんどんメタル(のような、過剰を旨とする音楽)に喰わせて、笑ってしまえばいいんだなぁ、ということがなんとなくわかった。