エル・トポ

なにこれ、思ったより全然面白いじゃないですか。この間「ホーリー・マウンテン」を待っているとき、受付そばの喫茶スペースにたむろした常連の年配の方が「エル・トポ」から出てきた人に、「どうだった? カルト? カルト?」と聞いて笑っていたけど、俺が観た後同じ質問をされたなら、答えは「知るかカルトとかうっせぇよ爺い」だ。

以下、ストーリーに触れます。また、適切でない言葉遣いを含みます。

story(前半)

馬に乗って砂漠を旅する黒服の男(以下、男)と、裸の幼子。幼子に男は「7歳になったのだから母親の写真とおもちゃを捨てろ」と命じる。男は凄腕のガンマンで、ごろつきに絡まれても神業のような早撃ちで殺してしまう。続いて、「大佐」と名乗る男に付き従う5人の男たちを倒し、付き従っていた女と、宣教師たちを救い出す。男ははじめ女に興味を持たない様子だったが、女に誘惑されて気持ちが変わる。男は幼子を捨て、女と一緒の馬に乗って去って行く。

男は女に十分な水や食べ物を与えることができない。女は「私を愛しているなら、この砂漠にいる4人のガンマンを倒して男になれ」と言う。男の対決の旅が始まる。

一人目は、中性的な顔立ちの盲目のガンマン。銃弾が身体の「すきま」を貫通するという体質の強敵で、男は勝負をあきらめかける。そこに女は「どんなことをしてもいいから勝て」と焚きつける。決闘の時間がやってきた。落とし穴を掘って、銃を抜く寸前のガンマンを落とすことに成功し、あっけなく勝利する。その場にいた、ガンマンの従者(腕の萎えた男が足の萎えた男をひもで結わえて背負った二人組)が逆襲しかけるが、どこからともなく現れた黒服の女ガンマンが、その場にいた敵を皆殺しにする。女ガンマンはそのまま、ふたりと旅を共にする。

二人目の相手は、母とライオンと共に荒野に暮らす、でぶのガンマン。でぶのガンマンは繊細な感覚の持ち主で、狙った場所に正確に弾を当てることができた。男の機転で、こっそり鏡の破片を置いて、母親が立ち上がったとき鏡で足裏を切るようにしむけて、慌ててかけよったでぶのガンマンの頭を打ち抜く。

三人目は、白服のガンマン。うさぎ達と共に暮らしている心優しい男。白服のガンマンは「頭を撃たれても胸を撃たれても結果は同じだ」と言う。勝負は相打ちになったように見えたが、でぶのガンマンのすみかで拾った金属製の容器を胸に仕込んでいたため、男のほうは命拾いをして、そのまま白服のガンマンを倒す。

四人目は、老人のガンマン。もはやガンマンではなく、老人の銃は虫取り網と交換してしまっていた。撃ってみろ、と老人は促すが、男の放った銃弾を、老人の虫取り網が反射してしまう。生命など無意味だ、と老人のガンマンは言う。ついでに、男の銃を手に取り、自殺してしまう。「お前の負けだ」と言いながら老人は息絶える。老人は死んだが、男には勝利も何も残らなかった。これまで倒したガンマンたちのなきがらをたずねてまわるが、男は完全に孤独になってしまったことを知る。

絶望にくれながら橋の上をとぼとぼ歩く男の前に、女ガンマンが立ち、男の胸を撃つ。女ガンマンは女に銃を渡して、「どちらかを選べ」という。女は迷わず、男に銃を向け、引き金をひいた。女ガンマンと女は結ばれ、男のもとを去る。

瀕死の男の身体は、通りがかった不具者の一行に拾われていった。

story(後半)

男が目を覚ますと、見知らぬ洞穴の中に座らされており、神体としてあがめられていた。男の髪は真っ白になっていた。彼が重傷を負ってから20年が経っていた。

男の世話をしていた女は背が低く、話では、彼らはこの洞穴の中で外に出られないまま親類間で婚姻を繰り返して、障碍を持つものが増えてしまったという。出口ははるか上にあり、彼らの力で登ることはできない。町までの出口を山の中腹に空けることができれば、村人たちは新しい人生を送ることができるようになるだろう。

自力で洞穴から出た男と女が見た町は、奇妙な宗教に支配され、奴隷を買い欲望を恣にむさぼる、悪徳の限りを尽くす人々に埋め尽くされていた。町に降りた二人は、洞穴脱出の資金のために、障碍をネタにしたパントマイムを演じる。

謎の宗教では熱狂的な集会が行われていた。神父は、救済と奇跡を証明するため、銃に弾を込め、皆にロシアンルーレットを促す。次々と手渡される銃からは弾が出ず、町の人々は熱狂する。そばにいた修道士が、不安な面持ちで自分の救済を試そうとするが、神父は修道士の耳元で「これは空砲だ」とささやく。修道士は弾を実弾に入れ替え、自分の救済を試し成功するが、その銃を手にした子供が銃を使い、子供は死んでしまう。神父は絶望して教会を去る。

男と女の仕事は好調だった。町の秘密の場所にあるサロンで金を稼がないかと誘われるままに引き受けたが、そこで、パントマイム以上のことを要求されてしまう。男と女の奇矯な裸体を見て町の人々は笑った。

男と女は愛を誓い、結婚しようと教会へ駆け込む。そこにいた修道士の顔を見て男は思い出す。この修道士こそは、砂漠で女を選んだときに捨てた幼子の成長した姿だった。修道士は父親である男にに憎しみをぶつけ、自らが黒服のガンマンの姿になって、男が使命を達成した後に男を殺すことを告げる。男と女と黒服のガンマン三人で、洞穴脱出のための資金を集めることに奔走する。

苦労の末、ついに洞穴からの出口が開く。しかし修道士=黒服のガンマンは、父親である男を殺すことはできなかった。

出口から町に殺到する洞穴の村の人々。その醜い姿に恐れをなした町の人々は、銃を手にして、メインストリートで迎え撃つ。男は止めようと走るが、銃の前に村人は無力で、なすすべもなく全員が殺されてしまう。

絶望した男は、ランプのオイルを身体にかけ、焼身自殺した。

男の子供をみごもっていた女が無事出産し、修道士=黒服のガンマンと女と赤子は馬に乗り、町を後にして、旅に出た。

note

  • 女ガンマンの登場で「え?」と思うが、あれは男の良心が耐えられなくなって生んだ影だろう。同じ服を着て、冒頭男がしていた指輪もつけているし、所持品も共通(割れた鏡を女ガンマンが懐に入れるが、次の決闘で男が割れた鏡を使う)。女ガンマンが現れて以降は、男は銃の早撃ち(銃声→カットが切り替わると相手に致命傷を与えているという技)を使っていない。
  • 男がロバに乗って現れて…悪徳の町でショットガンをぶっぱなして悪い奴らを皆殺し、ってまさにイーストウッドだし、西部劇ではあるのだけど、影響の与え合いを知りたい。

感想

  • あれ、これって「ノーモア☆ヒーローズ」じゃない? ……と思って検索したら、この映画のイベントに須田さん出てた。なるほどこれをやりたかったのか、と得心。そう思って観ると、前半の4人との決闘はめちゃくちゃ格好いい。「弾丸を身体のすきまから通すんだ」「この虫取り網は弾丸を跳ね返すのじゃ」、とかどこの中学生設定だ。


  • 不具者軍団 vs イカレ市民軍団の、メインストリートでの全面対決、というラストの盛り上がり、そして無抵抗なまま殺される、というシーケンス。
  • 不具者軍団かっこいい、という見方で言うとすべての動物がかわいい。馬も鳥も虫も兎も。死体ふくめて。
    • うさぎさんたちが…ほにゃ…しかしうさぎさんは死体も可愛いという
  • ホーリー・マウンテン」は思いつきで撮っているようにしか見えなかったけど、これは一応小道具の使い回しや伏線らしきものがあるので見やすい。そのぶん狂ってる感じにはなってないけど。
  • ニコ動にも分割したものが上がっているけど、合法違法はさておいても、見方がコメントに縛られるのでいかんですね。

76点。