クリスチアナ・ブランド『はなれわざ』ISBN:4150730032

クリスチアナ ブランド (著), Christianna Brand (原著), 宇野 利泰 (翻訳)
きわめてオーソドックスな本格探偵小説。教科書です。しかし外面はあくまで斜に構えて。

  • 常識的な警察機構が機能していない現場
  • 探偵が疑われしぶしぶ犯罪捜査に追い込まれる
  • あちこちで素人推理
  • すごい仮説。でも覆される
  • 追いつめられる登場人物
  • 仮の結末
  • そしてどんでん返し

人を食ったような設定と、一癖もふた癖もある登場人物達の繰り出す泡沫推理に、全編、ニヤニヤさせられっぱなしだった。しかしこの笑いは、「モース主任警部」シリーズのような、推理そのものの馬鹿馬鹿しさによるものではなく、シチュエーションと人物のおかしさによって成り立っており、きわめてハイブロウ(たぶん)。

メインのトリックは非常に大胆というほかなく、書き方によっては読み手に一蹴されてしまうたぐいのものなのだが、それがミステリとして成立してしまう構成になっている。また、トリックを支える伏線の張り方が「もの」ではなく「ストーリー」によってなされているのが秀逸。こうもちゃんと書かれてしまうと、いくら大胆なトリックでも「まいりました」としか言えない。

しかし、タイトルの「はなれわざ」というのは、トリックやアイデアがはなれわざという意味ではなく、こういう大胆*1なトリックを成立させてしまう作者の筆力がはなれわざなのであって、そのあたりに一種の嫌らしさを感じる。いや、その嫌らしさが、いいんだろうけどね。

短編も買ってみる予定。

*1:太字で書いてますが、ええ、悔しいんですよ、こんなあからさまな話に気づかなかった自分が…