『黒猫館の殺人』

(を、擁護する)

簡単な感想は、http://book.g.hatena.ne.jp/mutronix/20041107#p3
時計館の殺人』がバランスのとれた傑作だったため、その続きであるこの作品は、ご都合主義とかくどいとか、いろいろ言われているようだけど、『時計館』までの中で自分に課した枷をさらにメタな位置まで押しすすめた、職人気質に溢れたいい作品だと思う。
叙述トリック」という、結局どこまで信用していいのかわからない(どこから矢が飛んでくるかわからない)「語り」のアンフェアさを排除して、本格の形式の中に叙述トリックを押し込めると、必然的にこういう作品になってしまうわけだ。
目次をめくり、冒頭の記述を読むと、この話が「手記」と「手記の読み手による解決」の2部から構成されていること、手記の記述者は嘘を書いていないことが、宣言される。また、こういう構成をとっている以上、叙述の罠があることは言外にほのめかされているも同然で、実際に周到な伏線を張り巡らしてそれは行われるわけだが、それはあくまで、「手記」に書かれていることが対象であり、「解決編」の記述には波及しない。作者が構成によってフェアさを維持しようとしていることがわかる。探偵は今回ほとんど何もしないが、それは読者とほとんど同じ立場に立っているからだ。