『密室・殺人』

終わりを強制するのはある意味セコい


密室・殺人 (角川ホラー文庫)『密室・殺人』,小林泰三,ISBN:4043470045

理屈理屈理屈のオンパレード。主人公が徳さんや先生と繰り広げる屁理屈やはったり合戦は楽しい。突然森ミステリみたいな「会話が飛躍する女」が出てくるところとかも、そこはかとない悪意が感じられて楽しい。

それでも、この小説は、所謂「本格」とは毛色が違うように見える。理屈がてんこ盛りになっているにもかかわらず、どの理屈が真相につながっているのか最後までよくわからないからだ。真相でカタルシスに至るために理屈が使われているのではなく、この小説はどこを切ってもぐねぐねと理屈が書かれている。それがとぐろを巻いてとりあえず容器の中にはおさまっている、という感じ。

ほうほうそこはそういう理屈で回収しますか、という、作家のお手並みに期待している部分が大きいので、ミステリファンというより小林ファン向け。

最後、すごい所に伏線が張られていたことがわかるが、この伏線を本格として読むと「はぁ…? そう言われればそうかも知れませんが…」という感想を抱いてしまうかもしれない。しかしまさしくこれぞ、「オッカムの剃刀」を今ここで適用しなさい、ということなのだと思う。

【以下、ネタを割っている可能性があります】

ひょっとしたら、一の線二の線だけでなく、全く別の「コズミックホラー」としての読み方もできるように書かれているのかも知れない。実際そのようにオチなかったのが本書の最大のどんでん返しだった…。もしそんな「ホラー」としての読みが可能であればこれはディクスン・カーのアレなみの知略だと思うわけで、完成度以前にその意図に対して10点あげたい気分になったりするのだが、でもわざわざ読み返すには文章がごてごてしてて疲れるので、やらない。